はじめに
場所は東区相生町。 近代日本を築いた政財界人の旧宅が並ぶ〈文化のみち街並保存地区〉から西に少し外れた下町風情の町に、 かつては三連蔵だった古びた蔵がある。 ひとつは取り壊されて駐車場に、残る2つは壁を鋼板で補修され、一見蔵とは分からない。 その蔵のひとつが、我々の事務所だ。...
2度目の移転計画
再び相生町へ 徳川一丁目の事務所から目と鼻の先。我々は再び相生町へと出戻ることになる。 今度の建物はちょっと変わっている。 道路の反対側の屋根の先では、今でも鬼が睨みを効かしている。 外壁は漆喰の剥離を手っ取り早く補修したのだろう、上からうす茶色の鋼板で覆ってある。...
インフラ整備に悩む意外な盲点
例えば安い土地情報を見つけて「これはいい!」と思ったのも束の間、給水引き込みだけでかなりの費用がかかると聞き、半分騙された気分でその土地を諦めた経験がある人も多いのではないか。 水道、電気といった当たり前の設備を整えるのに、実は結構な費用がかかる。工事も大掛かりだ。...
2つの給排水プラン
実現可能な2つの案 給排水設備のプランについては、2案用意した。 どちらもあまりいい案とも思わないが、壁に穴を空けずに水を使う方法は、これくらいしか考えつかなかった。 ①屋外に水廻りをつくる 建物内に水廻りをつくらず、お隣との間のわずかな三角地帯に水廻りを増築する案。...
尻に火が付く
工事が間に合わない まだ時間はたっぷりある、と思っていたせいか、悠長に構え過ぎた。 やっと工事に取り掛かったのは、引っ越しまでのカウントダウンが始まり、いよいよもう間に合わない、となってからだった。 これはいつもの悪い癖。自分たちのことになると「どうにかなるさ」とつい後回し...
モッタイナイ精神で
紆余曲折を経て 床を組み、間仕切り壁を立て、1階部分に小さな部屋をつくる。トイレと給湯兼洗面室だ。 写真右がトイレ、左が給湯兼洗面室。石膏ボードに塗装仕上げとする。 古びた板壁と土間の暗い色調に映えるよう、真っ白な壁にしよう。 壁内には、断熱材を充填する。...
手強い敵
大変なのは給排水だけではなかった。 電気配線も、手強い敵に悩まされた。構造体表しの建物なので、梁や柱に直接配線していくのだが、梁の上に積もる、「一体何年分なんだ?」という年季の入ったホコリが、職人さんを苦しめたのだ。 大変なのは給排水だけではなかった。...
光を取り込む
暗黒の闇だった2階 実は最初の物件見学の際、ほとんど建物内部を見ることができなかった。 1階部分は出入口から入る光でなんとか見られたが、2階は真っ暗な闇に包まれていて、本当に何も見えなかった。2階には自然光が差し込む箇所がどこにもなかったからだ。...
おわりに
先人との対話、でもある やっと建物が整ったのは、引っ越し前日だった。 そもそもタイトなスケジュールな中、想定外の出来事も多く、ドタバタと慌ただしい工事だったが、職人さんたちが皆、はしゃいでいたのが印象的だった。めったに触ることのない年代物の建物を前に、ハプニングさえも楽しん...